すご~くマニアックな日本酒 ~前編~
みなさんこんにちは。今回は、久しぶりに日本酒の話を書いてみたいと思います(日本酒好きの方お待たせしました(笑))。
少し前の事ですが、私の友人が奈良へ旅行に行ったそうで、お土産に日本酒を買って来てくれました。奈良と言ったら清酒発祥の地と言われていて、昔から日本酒との結びつきが非常に深い地域です。
さっそく、どんな日本酒を買ってきてくれたのかワクワクしながら中身を見た私は、思わず「なんじゃこりゃ!?」と声をあげてしまいました(笑)。一体なぜか、その理由がこちらです。
ラベルが文字ばかり(笑)。左上に「千代の松」と言う名前がありますが、「奈良の神仏習合の酒」とも書いてあります。神仏習合の酒とは何ぞや!?さらに読み進めてみると・・・
「昔ながらの九五%の精白で、奈良の神社で見つけし酵母を使用して、奈良興福寺の多聞院日記の記述を基に、古き時代の製法(八段仕込み)で醸造しました。」
と書いてあります。・・・正直これだけではどんなお酒かさっぱりわかりませんが(笑)、聞くところによると、どうやら500年前に造られていたお酒を再現した日本酒らしいのです。なるほど、かなりマニアックです(笑)。そして、私の好奇心を刺激して堪りません(笑)。
と言う事で、この日本酒のマニアックさをみなさんにも知っていただきたいので、裏ラベルを見ながら少しだけ解説をしたいと思います。
まず最初にこのお酒の精米歩合についてですが、表ラベルには95%と書いてありましたが裏ラベルには97%と書かれています。つまり、わずか3%しかお米を磨いていないのです。最近の日本酒では、大体精米歩合は70%から50%ぐらいが主流なので(物にもよりますが)、いかにお米を磨いていないのかがわかります。
これは、現代のような精米機がなかった時代の精米歩合を再現したものです。今から500年ほど前は、人力による足踏み精米が行われていて、その精米歩合は約90%ぐらいだったと推測されています(ちなみに、私達が普段食べている飯米の精米歩合は約92%ぐらいです)。
お米の表層部には、タンパク質、脂肪、灰分、ビタミンなどが多く含まれていて、これらは日本酒を醸造するうえで必要な成分です。しかし、多すぎると逆に日本酒の香りや味を悪くするため、基本的に日本酒の醸造に使うお米は精米してこれらの成分を少なくするのです。しかし、このお酒はわずか3%しか磨いていない・・・実にマニアックです(笑)。
次に注目したいのは酵母です。現在では「きょうかい酵母」と呼ばれる優秀な酵母がいくつか販売されていて、その中から選んで使用される事が一般的です。しかしこのお酒は、酒造の神を祀る奈良県の大神神社の境内に咲くササユリからとれた「山乃かみ酵母」を使用しています。
この酵母の特徴は、アルコールの生産性が高く、リンゴ酸が豊富な酒質になる事です。リンゴ酸は酸味の中でも爽やかさを与えるので、キレがよくて油分の多い料理にも合う味わいの日本酒になるそうですが、きょうかい酵母を使わず敢えて独自の酵母を使うとは・・・実にマニアックです(笑)。
そして最後に注目したいのは、この日本酒の造り方です。このラベルには「多聞院日記の記述を基に、古き時代の製法(八段仕込み)で醸造しました。」と書いてあります。この「多聞院日記」とは、奈良県にある興福寺の多聞院の僧侶によって室町時代末期から書き残された日記で、この中に酒造りに関する記述が残されています。
そしてその中に、「段仕込み」と呼ばれる方法の記載があります。日本酒は、微生物による複雑な発酵のおかげで健全に醸造されます。しかし、それはとても繊細なバランスなので、一度に大量のお米を発酵槽(タンク)に投入してしまうと、そのバランスが崩れて健全な醸造が出来なくなってしまいます。
そのため、そのリスクを防ぐために数回に分けてお米を投入する方法が考案されました。それが「段仕込み」です。現在では三回に分けてお米を投入する「三段仕込み」が定着していて、「多聞院日記」の中にもその記載があるのですが、さらに仕込みの回数を増やした「六段仕込み」や「七段仕込み」の記載もあるらしく、この日本酒にはそれを基にして考えられた「八段仕込み」と言う製法が使われています・・・実にマニアックです(笑)。
そして、このお酒は奈良の大神神社の境内のササユリからとれた酵母と、奈良の興福寺の多聞院日記に書かれた醸造方法を基にして造られたお酒である事から「奈良の神仏習合の酒」と言う事になるのです・・・う~ん、実にマニアック!!
と言う事で、1人で勝手に盛り上がってしまいましたが(笑)、このお酒のマニアック度合いがおわかりいただけたでしょうか?これだけマニアックな造り方をしたお酒は、きっと味わいも個性的に違いありません!
実際に裏ラベルの味わいの表を見ると、甘口軸と芳醇軸のほぼ頂点に星が付いています(淡麗辛口の真逆を行く味わいです)。果たしてどんな味わいなのか、この続きはまた次回ご紹介します、お楽しみに!