バイオフィリア第0侯Vol.4                           〜分蜂〜

バイオフィリア第0侯Vol.4 〜分蜂〜

「ミツバチが気に入る物件作りと分蜂(ぶんぽう)」 

新しい 入居者のための準備を整えた らいく つか準備した巣箱のうち一つを家の敷地内の分蜂群が入りそう な場所に設置します。 もう一つは車の中に置いておきます。 これは偶然分蜂群にあった時の為、軍手と小 さめのダンボール箱とその箱より少し大きめのダンボール板と紐、ガムテープを共に常備します。 偶然分 蜂群に出会う事が出来たなら、私はそれらを使って蜂群を巣箱に入れたい。 残りの巣箱は色々な場所へ分 蜂した群が自然に入るよう仕掛けます。 仕掛ける場所は自分がテリトリーとするところ。私の場合は家の 敷地や、 実家の畑、親戚の土地や山、地元の神社などです。 

お隣が隣接しているような立地では多分に気を使う必要があるでし ょう。お隣さんや近隣の方々がどのよ うなスタンスの方であるか?巣箱が近くにあることに理解のある方だろうか。 分蜂群が飛んでいくか もし れないし、夏から秋にかけては天敵のスズメバチがやってくることだってある。冬には白い洗濯物にフン をつけられることだってあるだろう。たまにはお家の中にお邪魔することもあるかもしれない。 それでも お庭の花の蜜を吸いにきたり農作物の受粉に来るミツバチを、ミツバチ達が起こすご迷惑を上回るお気持 ちで温かく迎えて下さり、 喜びと感じてくれ るだろうか。 --- それからもう一つ、ミツバチと暮らすための大切な条件、近くの水田は農薬を撒いていないだろうか。 蜂との暮らしを初めてつくづく、父母、祖父母、親戚やご先祖さまに感謝するのです。 生まれ育った地域 はあったかいです。 実家の近所のおばさんは庭の木に分蜂群を見つけると「蜂が来とるよ」と教えてくれ ます。 隣の田んぼでソバを栽培されている方は、「今年は巣箱を置きますか?」と聞いてくださいます。 おそらく農薬を使うからであろうと思います。 現代農業とミツバチとの関係についてはとても根深く複雑 な問題があると感じます。 ミツバチが農薬によって少なくな っている現実は、長年のミツバチとの暮らし から実感することがあります。 しかし、科学的立証ありきの真実が正しい とされる時代において、経験則 でそうだと は言い切れません。ただ、これまでの実感として、その地で生まれ育ち暮らす人々が明日の天 気や、 もうすぐ雨が降ると分かる様なものと同じで「感じる」を感じることはあります。 この農業と小さな生き物の暮らしについて考え出したことが今の私の取り組みに繋がる一つになりました た。 ・・・そのお話は秋の章でするとしましょう。 

引越す前のお向かいさんも とても暖かく私たちを受け入れてくださいました。いつもお向かいさんの営む 農園に「ミツバチが来ていますよ」と教えてくださりそれを喜んでくださいました、そし て農園で採れた 野菜や、 果実で作ったジャムのおすそわ けを頂いたり、 私はお返しに蜂蜜や蜂蜜を使ったお菓子を届けた りしました。 ・・・さて、蜂との物語に戻りましょう。 巣箱を用意したら然るべき 時を待ちます。 それは桜の花が咲く頃、暖かくな るにつれ女王の産卵が盛んと なり、 蜂の数がどんどん増えてきます。 やがて王台と呼ばれる女王の誕生する部屋から新女王が誕生しま す。 雄蜂の姿も見られ、順調にいけば古い女王と約半分の働き蜂が巣を後にして分蜂します。 新たな巣と なる場所を求めて冒険の旅に出るのです。そし て私はその兆しを天気予報を見ながら待ちます。 ---- 雨が降った2日 後の風が吹かない晴天の日、絶好の分蜂日和であろうその日に、おにぎりを持って分 蜂軍を探しに行きます。 分蜂最中のミツバチを探すのは全く効率的ではないのですが、 これが私にとって 一年に一度の楽しみです。 もちろん!お菓子も持っていきます。 

今日こそ山々にいるミツバチ達が分蜂するに違いない!という日、お店の玄関に張り紙をして山や神社へ 分蜂群を探しに行きます。 ある時はswarm しながら空中を移動する分蜂群と共に1キ ロ先の民家に辿り着いたり、 途中で見失った 時などは一旦うちへ帰り、 その辺りのミツバチ達が行きそうな場所の目星をつけてまた繰り出します。 蜂達は落ち着くと 少しの間同じ場所にいる可能性が高いです。 ですので2〜30 分後にその場所へ行って みます。 見事に再会出来た時の喜びといったら!! ------ 休憩場所を見つけ程よい時間が経過した頃のミツバチ達は、みんな頭を上に向けて綺麗に整列し美し い球体となります。 球体でな い場合もありますが、 木の幹などに留まった大きな分蜂群が見事に球体となっ た時などは、まるでパイナップルが成っているように見えます。 

----- 分蜂は風のない晴れた日、朝10 時頃から午後3時 頃に行われることが多いといわれます。 私の巣箱の蜂たちは早朝6時30 分頃から午後3時 頃まで、特に8時30 分から昼にかけて分蜂すること が多く、同時に別の巣箱からも分蜂が始まった時などは、swarm する蜂が空一面を埋め尽くし ます。 その 渦の中で私は、蜂たちと共に冒険の旅へこ れから繰り出すような気持ちで、みんなとはぐれ ないよう塊の 行き先を見失うものかと必死に追いかけます。 この時の蜂たちはとても穏やかです。 群衆としてみるとそれは恐ろしく感じるかもしれませんが、 その1 匹1匹 を見れば蜂たちが幸福感を持って巣箱を飛び立ったと 感じることができます。 飛び立ったすぐの分蜂群はまるで統制がとれてない混沌として見えますが、 しばらくすると一点を目指し て美しい 球体となります。 女王は最後に働き蜂に促され巣を後にすると分蜂群の中心へと 移動します。 女 王を守る体制が整うと頭を空に向けて整列し分蜂球となります。 分蜂は風のない晴れた日にする事が多いと言われますが、 働き蜂が飽和状態になると蜂たちは天気と相談 する事なく小雨決行することも多々あります。 ただ、出ては見たものの一旦は大きな渦を作りながら断念 するという場合も少なくありません。そんな日が数日続く巣箱からは分蜂したくてもできないフラスト レーション が伝わります。 何度かトライ して、よし!今日こそはっ!と飛び立つ。 

この大きな冒険は蜂群にとって命がけの旅でもあります。 蜂達が分蜂を行うこの時期はちょうどツバメが 北上してこの地域で子育てを始める頃でもあります。 独り立ちに向け親ツバメが子ツバメにこう言うので す。 「いいかい、 あそこにドンくさ そうな1番 大きな蜂がいるだろう。まずあれをとっておいで。」そし て 子ツバメは数百、数千のミツバチの中で一際お尻が重くて飛ぶのが下手そうな女王を狙います。 -------- そんなおとぎ話を蜂の師匠が私にして下さったことがありました。ツバメも案外天敵かもしれない と言う話です。 子ツバメが見事初めての狩に成功すれば、希望を胸に(私の想像に過ぎない)飛び立った ミツバチ達の未来はない。 と言う可能性は高く、女王を失った蜂群はたと え新しい 住処を見つけたと して もおそらく全滅するだろう。 ・・・そういう事例も含めて、何らかの原因で女王がいなくな った群はみんな落ち着きがなく、気性も荒 くな るようです。 そのように、突然女王がいなくな った時には働き蜂の中で子を産むものが現れるようで す。 しかし、働き蜂が産む幼虫は全て雄性となります。 (と言っても雄蜂ではないのです。 )雌性の働き蜂は女 王しか産めないと言われています。 働き蜂が産む雄性のミツバチの特徴として、通常の働き蜂と異なり腹 のしましまがハッキリとせず完全とまではいきませんが、 黒っぽくな ります。 次第に雌性の働き蜂が絶え だすといよいよ幼虫を産むことができなくな り全滅の一途をたどります。 そのように明らかに蜂が少なくな り落ち着きもなく巣門を出入りする蜂の腹が黒くな ってきたら、「あー、 女王がいなくな った」と諦め全滅するまでを見守るしかありません。 

しかし! そのようなあらゆる困難が待ち受けようとミツバチの冒険は本能のままに始まるのです。 swarm は30 分もすると近くの気に入った場所に蜂球を作ります。 木の枝や幹であったり家の軒先など ケースバイケースです。 そのまま1〜2キ ロ先へ飛んで行ってし まい見失う事も多々あります。 そんな時 は何処かで無事に命脈を保って欲しい と願います。 面白いことにミツバチはかなりの確実で毎年同じ場所に分蜂してくれ ます。1年 経っても先代の女王の フェロモン が消えないのでし ょうか。 その匂いを見つけた後輩ミツバチは先輩達がそこに留まった事を知 り安全な場所と認識するのかもしれません。それをありがたいことに、毎年私はその時を待ち分蜂群がそ の場所に落ち着くのを確認すると、予め準備しておいた捕獲用の巣箱を蜂球の下に設置し、左手に蜂球が 入るくらいのダンボールを持って、近くにそれより大きめのダンボールの板をすぐ取れるよう準備します。 蜂球となったミツバチ達が全員頭を天に向けば女王がその中心に移動し落ち着いた状態と考えます。 その 状態の蜂球を私は開いた手のひらの人差し指側からゆっくり とスライ ドさせ、蜂球と支持体の接続部分に ス スー と切り込んでいく 。っと、ドサっという音と共に蜂球は私の左手にある段ボールへと 落ち、準備 してあった少し大きめのダンボールの蓋をします。 ダンボールに入ったその分蜂群を、下に予め準備して あった捕獲用の巣箱に入れます。 

無事蜂群を巣箱に入れることができたら、入りきらなかった蜂たちの様子をしばし一休みしながら観察す ることにします。 蜂群が留まってた 木の幹などには女王のフェロモン が付着しているため、巣箱に入りき らなかった蜂達はそのフェロモン につられてまた木の幹に留まろうとします。 巣箱に女王が無事入ってい れば次第にそちらから漂うフェロモン に引き寄せられ、次第に巣門から吸い込まれるように巣箱の中に 入っていきます。 捕まえた ミツバチ達が落ち着いた頃、あらかじめ探しておいた場所へ移動します。 だいたい2週 間ほど様子を見てミツバチ達が花粉をつけて帰ってき出したなら、安心して暮らし始めてく れたなと思います。 

天気のいい日に、仕掛けた巣箱の見回りに行くのも楽しみの一つです。 ミツバチの世界は、ある一面で女王のフェロモン によって働き蜂は動かされ、一方で働き蜂によって女王 の運命が決められているようです。 一方が一方を支配するという単純な関係性ではないようなのです。 と ても入り組んでいてそし てシンプルだと 感じます。 分蜂するミツバチたちはお腹いっぱ いに蜜を食べて旅たつと言われます。 分蜂群から漂う熟したフルーツ のような甘い香りを嗅げば、たし かに!と思えます。 それを感じられるのは、野生のニホン ミツバチとの 暮らしを選択した私にとって至福の時でもあります。 山や社に仕掛けた巣箱を見回るときは、おともに愛犬ノアを連れていきます。 

巣箱に向かう途中山の入り口は、自分が生きる世界と自然界の境界線のように思う事がたまにあります。 そこからはある意味別の世界が存在しているような。 これより奥で出会った小さな生き物の営みを覗くと きは 同じ世界であるが違う世界でもあり、 うまく 言えませんがそんな気がします。 --- 山の巣箱に到着したら、そーっとのぞいて様子を伺います。 仕掛けた巣箱にミツバチが入る兆しがあるときは、偵察隊のミツバチが数匹来ているのでわ かります。 そ のため偵察隊に警戒されないよう気をつける必要があります。 ここは住みやすい物件かしら?立地や治安はどうかしら?とチェックをしているようです。 どうやら、決め手は人間とさほど変わらないようです。 

巣箱に訪れた探偵隊ミツバチたちは巣箱の周りや中へ入ってみたりして引越し先として合格かどうかを吟 味しているようです。 案外良さそうだと 判断すれば仲間を数匹連れてきて皆で品定めをします。 それであ る日気がつくと すっかり引っ越してきていたりします。 引っ越してきたミツバチたちはすぐに巣を作り始 めます。 ミツバチの巣はミツバチが分泌するロウ(ハチロウ)で作られます。 ハチロウは腹部から鱗のよ うに分泌します。 ハチロウで作られた巣を溶かして不純物を取り除いたものがミツロウとなります。 ミツ バチの巣のように六角形で作られる構造はハニカム(蜂の巣)構造といわれ、少ない材料で効率的に空間 を支える頑丈な構造として飛行機や建築材料にも応用されています。 ハチロウで作られた巣は巣箱の天井から垂れ下がるように作られます。 作りたての巣は真っ白で、女王は 1部 屋に1匹 子を産み付けていきます。 子育てをするのは羽化をして3〜 12日 ほどのミツバチが担当す ると言われます。 働き蜂は日齢によって担当する仕事が決まっているようです。 羽化してから約5 日はお 掃除担当、3日 〜12日 が育児担当、8日〜16 日が巣作り担当、16 日〜24 日が門番、一番年長者2 0日〜が外勤として蜜や花粉などを採りに行きます。 。最初小さかった巣もどんどん増築されて行きます。 当初子育てに使っていた部屋の子供が羽化するとその場所は花粉や蜜を貯蓄する部屋として使われる事に なります。 そうして真っ白だった巣は黄色になり、 徐々に茶色に変化していきます。 

ミツバチたちが居着いて暫くの間は静かに様子を見る事にします。 お試し期間です。 それで気に入らなけ れば、せっかく作り始めた巣もあっさり捨てて他の場所へと 去っていく 、それがニホン ミツバチです。 外 回り担当の働き蜂が、 足に花粉をつけて帰ってくるのが確認できれば一先ず落ち着いたかなと安心します。 無事住み着いた巣箱を他の場所へ移動する時は、日が落ちてから始めます。 蜜や花粉を採りに行ったミツ バチが帰って来るのを待ってから引っ越しです。 ミツバチの好む場所は人の気配のない場所です。 大きな 石の陰であったり、 木造建築の隅などです。 そうなると、巣箱を仕掛ける場所は神社であったり墓地であっ たりします。 日が落ちてから、もしくは夜明け前ミツバチが出かける前に行います。 神社はともかく墓地 は流石に気味が悪い。 日が落ちてから向かう墓地などは肝試しに行くよ うなものです。 気味が悪いと思う 心の声を口に出すと「ぎゃー!」となりそうで、うろたえそうになる自分を落ちつかせます。1秒 でも早 く立ち去りたいのですが、 慌てて巣箱をガタリとして、門番が外に出て来ないよう慎重に引っ越しの支度 をします。 ニホン ミツバチの飛行距離は約2キ ロメー トルと言われます。 巣箱を移動する際は、現在の場所から最低2キ ロメー トル離れた場所に移動する必要があります。 仮に移動させたい場所が今の場所から1キ ロメー トル先の場合は、今巣箱がある場所と移動させたい場所、 双方から2キ ロメー トル離れた場所に一旦移動させる必要があります。 それから約2〜3週 間 経ち、ミツバチたちの様子をみつつ大丈夫そうであれば目的の場所に移動します。1キ ロメー トルくらい なら直接持っていっても大丈夫と言う方もいらっしゃい ますが、 昔、私が初心者だった頃近距離で巣箱を 移動してし まい、 ミツバチ達を混乱させた挙句、全滅させてし まった苦い経験があります。 その時の失敗は自分の愚かさを痛感するものでし た。蜂の生態をよく 知らず、 ただただ唖然とするしかあ りませんでし た。 はじめの3年 くらいは天狗になりがちなのです。 養蜂家気取りでうんちくを語りたがりで。 7年 、8年〜を経て自分は何も知らない、 と言うことを学びました。

つづく 

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山奥の地元でニホンミツバチと暮らす人たちです。

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