飢渇や困窮よりも恐ろしいもの (インフレ雑考②)
物価上昇が、大きな関心を集めています。
物価上昇が話題になるとともに、その中でどうやって暮らしを維持するかという記事も、散見されるようになってきました。
たしかに、買うものが高くなったら、「どうやって食っていくか」は重要です。
しかし、インフレについて色々調べているうちに、それよりも恐ろしいものがあるということに気づきました。
それは、犯罪の増加です。
たとえば、ベネスエラです。
ここ数年、南米のベネズエラでハイパーインフレが発生。
塗炭の苦しみの中で、強盗や掠奪、誘拐などが横行していることは、さまざまな記事やレポートで取り上げられてきました。
人から奪う以外に、生きていく方法がないという、嘆くべき状況です。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65689
犯罪が急増する中で、警察は何をしているのか?
『国家破産ベネズエラ突撃取材』(浅井隆著)では、「警察の方が怖い」と指摘されています。
というのも、盗みに入られて警察を呼ぶと、駆けつけた警察官が、家の中からものを取っていくというのです。
「それは南米での話でしょ?」ーーと、そう思う方もいるかもしれません。
別の例を挙げます。
『ハイパーインフレの悪夢』(ファーガソン著)は、第一次世界大戦後のドイツ、オーストリア、ハンガリーを襲ったハイパーインフレを活写した名著です。
その中に、公務員の汚職が横行した、という場面があります。
公務員の給料の一部が、ジャガイモで給付されるほどに困窮したドイツでは、戦前には見られなかった収賄や、通貨偽造や、不正なごまかしが横行したそうです。
そんな治安の悪化にせよ、官吏の腐敗にせよ、そこから推し量れる事実はシンプルでしょう。
すなわち、人は困窮すると、ルールを守ってなどいられなくなる、ということです。
中には、渇しても盗泉の水を飲まず、という人はいるでしょう。
しかしそういう人は、飢渇が長期化すれば死に絶えます。
生き残るのは、盗みや強奪をする人たちです。
もちろん、喜んで暴力を振るう人たちばかりではなく、止むを得ず犯罪に手を染める人が大多数でしょう。
(火垂るの墓を思い出しますね)
もちろん、インフレと、ハイパーインフレを同列に扱うことはできません。
上記の例は、いずれも極端なものではあります。
私も、今の日本がベネズエラや昔のドイツのようになるとは想像していません。
ただ、もしインフレに備えるのであれば、インフレに強い資産を持つだけでは不十分なのだろう、というのが私の意見です。
30年とか40年とか、長期的に考えればなおさらです。