ライトニング搭載ウォレットのユーザビリティについて
ビットコイン送金がより早くより安くなる技術のライトニングネットワークですが、この仕組みにもいくつかユーザー体験を損なうデメリットが存在します。その最たるものは初期セットアップではないでしょうか。ライトニング搭載ウォレットの初期セットアップでは、ユーザーはそのウォレットへビットコインを送金し、そのビットコインを使ってチャネルと呼ばれるライトニングネットワークへ参加するためのトンネルを作る必要があります。この手間がユーザー参加の障壁となっており、この複雑なセットアップをなくそうとする試みの1つとして、Wallet of SatoshiやBluewalletのようなカストディアルウォレットが誕生しました。カストディアルウォレットとは、ビットコインの核である秘密鍵をサービス提供者が管理しているタイプのウォレットです。このようなタイプのウォレット・サービスを日本で提供する場合は、改正資金決済法の定められているとおり暗号資産交換業としての登録が必要です。
一方、初期セットアップが必要なライトニング搭載ウォレットはノンカストディアルと呼ばれるタイプのウォレットで、ユーザー自身でビットコインの秘密鍵を管理するタイプのものです。こちらの記事にはカストディアルとノンカストディアルのウォレット一覧が記載されているので興味がある方はのぞいてみて下さい。
さて、カストディアル・ノンカストディアルには、どちらもメリットデメリットがありますが、ユーザー資産の保護という観点ではどちらが良いのでしょうか?これも一朝一夕には答えられない問題で、例えばITリテラシーが高くない人がノンカストディアルウォレットを使った場合、秘密鍵を無くす可能性があります。このような場合はカストディアルウォレットの方が良いのかもしれません。一方、カストディアルウォレットの場合、サービス提供者がユーザーの鍵を管理しているので、攻撃対象にされる可能性が高まります。これは相次ぐ仮想通貨取引所のハッキング事件を見れば明らかです。
ユーザビリティの観点ではカストディアルウォレットの方が圧倒的に良いのですが、セキュリティや法規制の観点ではノンカストディアルウォレットを選ばなければなりません。ただそうなるとユーザビリティの低下によりユーザーが使ってくれない可能性があります。このようにユーザビリティとセキュリティはトレードオフの関係にあることが分かると思います。
しかし、ノンカストディアルウォレットでもカストディアルとほぼ同等なユーザビリティを保つように工夫をしているウォレットがいくつかあります。以下はノンカストディアルウォレットなのですが、いくつか際立ったユーザビリティ向上の仕組みが使われているので、簡単に紹介したいと思います。
- BLW:Hosted Channelとよばれる監査可能だがカストディアルなタイプのチャネルを自動的にセットアップしてくれる。通常のチャネル開設も可能。
- Breez:ウォレット起動時に相手側から自動的にチャネルをセットアップしてくれる。
- Phoenix:Instant Channelとよばれる0承認での送金ができるチャネルを相手側から自動的にセットアップしてくれる。
- Muun:Submarine Swapとよばれるオンチェーン・オフチェーン間送金の仕組みを使い、ユーザーはオンチェーンのコインのみ所有し、オフチェーン送金はこのSwapを使う。ユーザーはライトニングの初期セットアップが不要。
上記のウォレットはユーザビリティ向上のために面白い工夫を試みていますが、まだまだカストディアルウォレット並みの使いやすさには及ばないのが正直なところではないでしょうか。それでもそれぞれの試みは大変興味深いので、今後のさらなる向上を期待したいです。
次回はMuunというウォレットについて焦点を当てて解説したいと思います。