『ビットコインなんて必要ないと言う幸運なあなたへ』を読んで思うこと②

『ビットコインなんて必要ないと言う幸運なあなたへ』を読んで思うこと②

サイファーパンクは人々の権利を守るべく、暗号技術を駆使して国家権力による監視に対抗し、我々はその成果を享受しています。より自由な社会をコードで実現する平和的な革命運動は、ビットコインという最高の果実を生みました。わずか9ページの論文による静かな革命を、現代人はリアルタイムで目撃しています。読者の中には革命の一端を担う同志諸君も大勢いることでしょう。

監視国家に技術で対抗するサイファーパンク同様、多くの基軸通貨を持たない国の住民、先進国の経済植民地で暮らす人々もまた、ビットコインで自由と権利を回復しようとしています。

特権階級・行政機関・銀行・仲介業者に搾取される運命だった人々が、インターネットとビットコインの知識を身につけ、逆襲の機会を得たことは革新的です。

デジタル発の技術革命が、途上国はもちろん世界のリアルを変えようとしています。世界中でインターネットが利用できるようになり、現実社会の根幹をなす「マネー」がビットコインによりバージョンアップされ、AGI(汎用人工知能)の実現が時間の問題とされる時代に、果たして私達はどう振る舞えばよいのでしょうか。国家や権力者はどう動くのでしょうか。肯定か否定か傍観か。

ヒントは歴史の中に隠されているのが常です。本書では、アフリカ・中東・西アジア・中南米の圧政と人々の抵抗、サイファーパンクの歴史とビットコイン誕生の背景、ペトロダラー体制とアメリカの金融支配から多極化へ向かう世界、アメリカ建国精神とビットコインの共通性、ビットコイン登場と超帝国主義国家アメリカの終焉を紹介し、今を生きる個人へ「私たちはどう生きるべきか」数多の示唆を与えてくれます。

本書の良いところとして、圧政国家のみを悪者にした一面的な西側の世界観ではなく、ヨーロッパ列強による現在進行形の植民地政策、アメリカの特権的地位と帝国主義的欺瞞にも批判を展開していることを挙げたいです。

民主主義国家・全体主義国家を問わず、国家体制と通貨制度の完全なる分離が政治と経済に及ぼす好影響は計り知れません。これからの時代、国家と宗教の分離同様、国家と貨幣の分離が進まない国は、「先進国」の看板を降ろしたほうが良さそうです。

ビットコイン・レジスタンス運動こそ、超帝国主義が死守する特権階級の既得権益と、彼らに群がって分け前をもらうレントシーカーにとって最大の難敵です。「イノベーションの歴史」を振り返れば、抵抗勢力の最終的な敗北は必然ですが、悪法・恣意的行政執行・懲罰的徴税・インフレーションの放置など、支配階級がビットコイン革命軍を虐げる方法はいくらでもあります。

一方で、彼らの最強兵器フィアットカレンシー制度は、破綻する前日まで無制限発行できるのが最大のメリットであり、物理兵器・兵隊・警察官を調達するエネルギー源ですが、インフレという弱点において、ビットコインは負けを知りません。

ビットコインにあり国家にない特徴として、①超国家的で公平な分散型ネットワーク ②経済的自由やプライバシー保護を偽りなく実行し続けるプログラマブルかつ半永続的なシステム設計 ③特定の人間への依存が不要となる非属人性と非中央集権性 などが挙げられます。

国家と個人の力の差は歴然ですが、ビットコインほど有効性の高い権力への対抗手段はなかなか見当たりません。サイバー空間において平和的かつ分散型自律組織的に進むムーブメントは、強権や暴力で制圧するハードルが非常に高いため、圧政国家や既得権益層には悩ましい存在として映るでしょう。

人々の自由・安全・健康を守るために都合が良い共同体として作り出された「国」がまともに機能すれば良いのですが、歴史的にも抑圧と暴力の象徴という負の側面が大きすぎます。

そもそも国家などという組織は実在せず、本当に存在するのは人間の集団です。国家や神は共同幻想に過ぎません。人々の幸福を最大化する装置として有効に機能するときは役立ちますが、個人を超えた存在と錯誤され、一部の利権集団の支配の道具として機能すれば、人々を脅迫と抑圧で閉じ込める暴力装置に変貌してしまいます。

共同幻想の維持を目的に、国家・地域・会社・学校・家族のため個人が犠牲になることを美化する教育によって幻想が再生産されます。国を牛耳る利権集団を神格化する道徳や教義も生まれます。幻想から目を醒まして逆らう者は、差別と暴力で鎮圧します。人々は恐怖による防衛機制で自己正当化と奴隷化を自ずと進行させていきます。

人々が自由を捨てて、権力者におもねり、彼らの作ったを掟に安心感を覚え、抵抗者・はみ出し者の密告・迫害で快感に浸るようになれば、奴隷化は完成段階です。

上記のような社会が歴史の遺物ではなく、2024年時点でも存在することは多くの人が知る通りです。本書を読めば、その本当の過酷さと、自らの恵まれた生活に気づかざるを得ないでしょう。選択の余地がない地獄で苦しむ自身や家族を想像してください。地球上ではそれが多数派なのです。

日本にも帝国主義と世界大戦による苦しみに耐えた人々が僅かに生き残っています。新たな圧政と戦争を遠のかせるためには、有能・誠実を装う政治家に期待するより、無尽蔵な戦費を生み出す国債依存の法定通貨を捨て、ビットコイン・スタンダード・ライフに移行する人々を増やすほうが効果的であると本書は主張します。

ドル覇権からビットコイン本位制への平和的転換は、イデオロギーの力やメディア・コントロールによる集団催眠では成しえません。人間の持つ利己心という本能、言い換えれば資本主義的欲望に基づく行動によって達成されます。

ビットコイン革命の原動力は、コードに刻まれた自由への意志、経済的動物である人間の本能、電力という名の物理エネルギーです。今この瞬間にも革命へのエネルギーが抑圧された人々から無尽蔵に溢れ出ています。

もう、この社会変革は止めようがないのです。

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