(1999年の記事)「パソコンのために石炭を掘れ!」
1999年の新聞記事の翻訳です。ちょっと長いので中略するかもしれませんが、けっこう面白かったので共有します。今や誰も文句言わないのが面白い。
原文:"Dig more coal - the PCs are coming" (Forbes, 1999)
パソコンのために石炭を掘れ!
(南カリフォルニア) エジソンよ、Amazon.comを紹介しよう。オンラインで本が注文されるたびに、アメリカのどこかで石炭の塊が燃やされている。
現在の「燃費」では、2MBのデータを作成し、包装し、保管し、輸送するのにおよそ1ポンドの石炭が消費されている。どうもデジタルの時代はエネルギーを大量に消費するようだ。インターネットはいつかレンガやモルタル、カタログ紙の削減に貢献するかもしれないが、その過程で恐るべき量の化石燃料を消費している。
パソコンの計算能力は数年ごとに2倍になっている。確かに今日のプロセッサの電気効率は以前のものよりも高いが、digital powerの需要はそれをはるかに上回るペースで増加している。かつてなく多くの、そしてより大きな半導体を使って計算処理をしているのだ。その結果、熱を持った半導体を冷やすためのファンや、ディスク・ドライブやモニターなどと合わせた電力消費量が増している。そしてこれは衰退期に入ったと広く信じられている火力発電網に非常に大きな変化をもたらしている。
インフラ整備に何兆ドルも費やされてきた今日の電力網だが、電力需要の半分は1世紀以上前のテクノロジーである電球とモーターに占められている。このため、つい最近まで電力業界は成長余地が少ないと考えられていたーーすでにモーターも電球も十分な量が存在するのだから。「電力の長期的な供給曲線はカンザスの地平線のように平らだ」とグリーン派の精神的リーダーであるエイモリー・ロビンスが1984年に宣言するほどに。
しかし、ロビンスが大平原を眺めている間に、IBMを始めとする各社がPCの生産を拡大させていた。現在では世界での年間生産量がICは500億個、車のエンジンや電話にも使われるマイクロプロセッサが2000億個に至る。これらの部品はどれも電気を使う。ビットが電子という形をとる表面において、これらの集積回路は太陽の10分の1にも達する非常に高い電力密度で動作する。Lucent、Nortel、Cisco、3Com、Intel、AMD、Compaq、そしてDellはかつてのGeneral Electrics社のように電力需要の拡大を生み出している。
典型的なPCと周辺機器はおよそ1000ワットの電力を必要とする。IntelliQuestの調査によると、平均的なインターネットユーザーは週に12時間をオンラインで過ごしている。(このデータは家庭でのネットユーザーのもので、仕事でのインターネット利用は調査が難しいが、恐らくこれより高いだろう。) この利用状況であれば、年間で1000キロワット時の電力消費ということになる。
そしてすでに家庭には5000万台、企業には1億5000万台ものコンピューターが導入されている。毎年3600万台が新たに販売され、2000万台がインターネットに接続される。
そして机の上にある機械1台につき、ネットワークの向こう側に2~3台のデバイスがある--ハブやサーバー、ルーター、リピーター、増幅器、リモートサーバーなどなどだ。SchwabやAmazonを支える大型のサーバーは1メガワットは必要とする。インターネット関連事業のみを行うドットコム企業だけでも既に1万7000社ある (Ebay、E-Tradeなど)。
大型のサーバーは1台1台が小さな村と同じくらいの電力を消費しているということだ。
ドットコムからデスクトップまで情報を送るのにも更に電気が必要だ。例えばCiscoの7500シリーズのルーターは4億ビット/秒の処理能力でウェブを支えるが、そのために1.5キロワットの電力を使う。さらに、電線や光ファイバーを経由する場合と比べて、無線のウェブは全方向に信号を飛ばすためにそれよりも更に電力を消費している。デジタルPCSネットワーク (※訳注…当時の携帯電話のデータ通信ネットワーク) はまだ発展途上だが、数年以内に7万もの基地局が必要になり、十年後には更にその2倍に増えると予測されている。その基地局もそれぞれ少なくとも数キロワットの電力を必要とする。ワイヤレス携帯デバイス市場 (次世代のパーム・パイロットのようなものだ) は数年以内に年間販売台数が2000万台に達するだろう。
個別で見れば、これらのハコは大した電力消費とは言えないだろう--携帯端末は単3電池数本で数週間もつようになっている。Ciscoの最新鋭のギガビット・ルーターである12000シリーズは、先代と同じ消費電力で16倍もの帯域幅を扱える。しかし効率化しているとはいえ、計算処理能力の需要増加ペースのほうが速い。半導体産業協会によると、今日の最先端の集積回路は2100万個のトランジスタが400メガヘルツで動作するのに90ワットの電力を使用するが、10年ほどすれば集積回路が14億個乗った1800メガヘルツのチップがおよそ175ワットの電力で使用できるそうだ。それに、たとえHewlett-PackardのToronadoやNokiaのインターネット携帯電話が人間の体温を電源に使用できたとしても、ウェブとの通信によってネットワーク上流での電力消費を増加させてしまう。
実際にウェブのトラフィックは3ヶ月ごとに倍増している。1700万家庭が2台以上のパソコンを所有している。通信する機器はもはや机上のものにとどまらない。Electroluxは最近、メモ紙とマグネットを埋め込み型のPCで置き換えた「インターネット冷蔵庫」を発表した。GEはインターネット・オーブンレンジを作り、EmWareというソフトウェア会社はSybase、3Com、Micronと自動販売機のオンライン化による在庫管理の改善に乗り出した。
これらのデバイスの生産だけでもとてつもない量の電気が必要になる。高額な工場には炉やポンプ、乾燥機、イオンビームなど、電気を食う設備があるからだ。1平方インチのシリコンに回路を刻むのには9キロワット時が必要で、PCの生産には1台あたり1000キロワット時、つまり1年間稼働させるのと同じくらいの電力を使う。(この計算には物理的にパソコンに入っているものだけを含めており、ウォーターサーバーのような環境整備は含んでいないにもかかわらずだ。) 典型的な半導体の製造工場は10から15メガワットも必要とする、電力面では小さな製鉄所のようなものである。そしてそれが全米で300ほどあり、半導体の生産関連でアメリカの電力生産の1%を消費している。
情報と電気の合体は既に電力需要に影響を示している。インターネットには少なくとも1億台のノードがつながっており、それぞれ年間で数百から数千キロワット時を消費しているから、合計で2900億キロワット時の需要になっていると推定される。アメリカ全体の消費電力のおよそ8%だ。そこにネットワークに繋がっていないチップやコンピューターの製造と運用に必要な電力を加えると合計で13%になる。もはや10年以内に電力網の半分がデジタル・インターネット経済に注ぎ込まれるという予想も無理ではない。
世界的な影響も絶大だ。Intelは10億人がオンラインになると見据えている。それはコンピューターの販売金額にして1兆ドル、そして電力インフラの整備にさらに1兆ドルを意味する。本当に10億台のパソコンがウェブにつながれば、それだけで現在の米国全体の消費電力に匹敵することになる。
でも、デジタル化で効率化してエネルギー需要が減る場合もあるかもしれないと思うだろう。例えばテレワークやEメールは経済の別の部分で消費を減少させる。実際に運送業のエネルギー需要は若干低下している。倉庫の小規模化や経済のチューニングによってガソリン、軽油、そして暖房用の燃料の需要を押し下げている。だが、電力需要は減っておらず、電気はほとんどが石炭 (56%)、原子力 (20%)、水力 (10%)、そしてガス火力 (10%)で発電されている。確かに冬場にはコンピューターの排熱で暖房需要が減少するかもしれないが、夏場の冷房需要の増加はそれ以上のものだろう。
すなわち、照明や冷暖房の長年に渡る効率化の努力にも関わらず、オフィスビル内での面積あたり消費電力は少しも減っていないのである。しかも、ホームオフィスは大抵会社のオフィスを置き換えるものではない、全く新しいものなのだ。
最近FDAの承認を得たCanonの新しいデジタルX線撮影システムは数万台の旧式の撮影機と何百万本のフィルムを置き換えることになるだろうが、これまでより多くのクリニックに設置されることになるだろう。しかもセカンドオピニオンを得るために遠方に高画質のデータを送るため、帯域幅も圧迫する。現在も電力消費の合計は年率3%くらいで増加しており、増加分のうち半分以上はマイクロプロセッサの勃興に起因している。
もう1つ、電力網に大きな変化が予想される:品質と安定性だ。これまでの電力網では60ヘルツの交流において1回きりの変動は許容されてきた。冷蔵庫や電球、オーブンにとっては誤差のようなものだからだ。
だがコンピューターやルーターにとってはそれが大惨事に繋がりうる。
それがロードアイランド州ウェストキングストンのAmerican Power Conversion社のような会社が10年間で売上を70倍に伸ばしてきた理由だ。当社はデスクトップPCからドットコム企業のサーバー、ルーター、データセンターに至る様々な顧客に安定した電源を供給している。電力を安定させるシステムやハードウェアにも大きなブームが来ているのだ。
例えばテキサス州オースティンのActive Power社はフライホイールを用いた電力保存システムを使い、オフィスビルや工場を「危ない」電力から守っている。1.4トンものフライホイールが毎秒7700回転で回ることで。
他にはマサチューセッツ州ウェストボローのAmerican Superconductor社は重量750キログラム、消費電力2メガワットの超電導磁石を使って同様のことを実現しようとしている。このように、私達の求めるビットが整然と送受信されるために、重たい原子でできた機材がどんどん導入されていくだろう。
フューチャリストたちは情報の高速道路を説いてきたが、現実は貨物列車に石炭が満載されている。光ファイバーケーブルと高圧線。片方だけを取ることはできない。