「我是、三尾の大明神也。此木をまもらんかために、本国より片特もはなれす、諸の眷属をひきゐて来る」

「我是、三尾の大明神也。此木をまもらんかために、本国より片特もはなれす、諸の眷属をひきゐて来る」

この上の、『長谷寺縁起絵巻』(出光美術館所蔵)の上巻第10段の絵図のなかには、近江国(おうみのくに)の高島(たかしま)の白蓮華谷(びゃくれんげだに)(白蓮花谷)から流出した霊木を見守る三尾明神(みおみょうじん)(三尾大明神)(白衣の翁)(この絵では見切れています)や、持蓋童子(長谷寺守護童子)、異行の者たち(鬼たち)、雷神、風神などが描かれています。

この下の文章は、出光美術館に所蔵されている『長谷寺縁起絵巻』(はせでらえんぎえまき)の、上巻第7段から上巻第11段までの部分の詞書(ことばがき)と、それらの段の絵図のなかに書かれている文字を書き起こしたものです。 

この下の文章では、大和国(やまとのくに)の長谷寺(はせでら)の本尊である十一面観音を造仏するために使用された御衣木(みそぎ)の霊木が、もともとは、近江国の高島の白蓮華谷から洪水によって流出した巨大な倒木であり、その霊木が行く先々で火事や疫病などの祟り(たたり)を引き起こした、という話が語られています。

〔上巻 第7段の詞書(ことばがき)〕
上人、无上菩提の心さへかたくして、終に、大師道明大徳に語て 云、「仏像をつくらんかために、御そ木を求とおもふ。」大師答ていはく、「善哉。不遠、神河浦に霊木あり。尤吉なり。」怪哉。今夜、一の夢を見る。数輩異形のたくひ、彼木を中にして坐烈す。其中に、一人の童子蓋をもて木を覆ふ。又、木の下に白衣老翁あり。其形まことに徹也。我、向ていはく、「翁公は何人そ。又、何事に此所に住するそ。」答て 云く、「我是、三尾の大明神也。此木をまもらんかために、本国より片特もはなれす、諸の眷属をひきゐて来る。又、蓋をとる童子は、当山守護の童子也。霊木、彼請(ウケ)によりてこの山に来る所の相応こと(コト)の奇瑞也 云〻」。爰に、窘然として夜を曙す程に、汝、今請問すと、上人、謹請給。

  〔上巻 第7段の絵図のなかの文字〕
  『本願徳道上人』
  『師匠道明 大師』

〔上巻 第8段の詞書(ことばがき)〕
上人、長谷の郷の古老に木の由来を尋るに、答ていはく、「所命の木、此土に来てより以来、郡郷の人民おたやかならす。をの〳〵力をあハせて、遠く他の里におくらんとおもふ。」

  〔上巻 第8段の絵図のなかの文字〕
  『上人泊瀬の古老に 木の由来を尋』

〔上巻 第9段の詞書(ことばがき)〕
古老、語ていはく、「つたへきく近江国三尾前山の白蓮花か谷に、大なる臥木あり。長こと、十余丈の楠なり。此木より、常に光をはなち、異香をくんす。又、諸天来下して、白蓮花を持て此木に散す。其花、此木に属して蓮花を生す。其色、又白色なり。如此、其谷にして多年を経たり。故に、いまに白蓮花か谷といふ。」

  〔上巻 第9段の絵図のなかの文字〕

  『白蓮花か谷にして 奇瑞あり』

〔上巻 第10段の詞書(ことばがき)〕又 云、「継体天皇即位十一年、雷電風雨大に命して洪水あり。此木、彼谷より流いつ。」

  〔上巻 第10段の絵図のなかの文字〕
  『童子』
  『三尾□□□』

〔上巻 第11段の詞書(ことばがき)〕
又 云、「志賀の郡大津の里にある事七十年。里の人、いまに木の心をしらすして切とる程に、郡郷の家〻門〻宅をやき、病を発して、よろつ不吉なりけれは、其故をうらなふに、此木のたゝり也。聞者、おかす心なし。」

  〔上巻 第11段の絵図のなかの文字〕
  『大津』
  『里のわつらいを うらなふ』

(※参考文献: 黒田泰三 (1986年) 「7 長谷寺縁起絵巻」, 「図版解説」, 黒田泰三(編集担当), 黒田泰三(図版解説), 脇坂進(撮影), 出光美術館(編集), 『やまと絵 (出光美術館蔵品図録)』, 出光美術館, 224~225ページ.)

(※注記: この文章のなかの、「相応ことの奇瑞也」という一文のところの、「こと」という言葉は、原文では、「糸偏(いとへん)」に「寄」と書く漢字になっています。ですが、その漢字を活字として表示することができませんでした。ですので、ここでは、その漢字の読み仮名である「こと」というひらがなで、表記しています。)

(※注記: この文章のなかの、「三尾□□□」という部分は、「三」という文字以降の文字が欠損してしまっているために、不明になっています。ただ、おそらくですが、ここには、「三尾大明神」と書かれていたのではないかとおもいます。)

(※注記: 引用者が、一部の漢字を、旧字体から新字体に変えました。)

(※注記: この引用文のなかの句読点やカギカッコは、文章を読みやすくするために、引用者が付け加えたものです。)

 

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「これ好奇のかけらなり、となむ語り伝へたるとや。」

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