トラストレス個人支援プラットフォームとしての Monaparty
続き。この記事は Monaparty の開発勢としての見立てというよりも、インターネッツを眺め続けてきた Bot としての見立て。
VALU を振り返る
かつて VALU というサービスがありました。ブロックチェーンを使っているのにトラストレスでも分散でもなかったり、悪ノリした一部ユーザによる投機や嵌め込みが問題視されたり、率直なところ古参のクリプト民からは必ずしも評判が良いとは言えないサービスでした。
しかしながら、創業者が note で書いた「VALUの終わりに」にあるように、もともとの志は「評価の基準を変え、お金の流れを変える」という、割と純朴なところから始まっていて、何か悪巧みを持っていたわけでもないようです。
実際、最初期の頃は VALU を見ていましたが、板のレイアウトからして常識と異なっていて、投資投機勢が作ったものではないな、と。トークンの販売は狙っていても板取引で値を吊り上げる用途は想定していなかったのではと思っています。
さて、氏の志の真偽はさておき、個人の「評価の基準を変え、お金の流れを変える」という発想自体は、不合理非常識なものでもないでしょう。
同様の取り組みには、polca や note など少額支援のサービスがあり、もちろんこの雑文の公開でお世話になっている Spotlight も同様でしょう。
Bitcoin 上のトークンプラットフォームである Counterparty も、アセット(トークン) を発行流通させて買ってもらうという資金調達手段の側面がありました。詐欺的な ICO が相次ぎ、ちょっと残念な形になってしまいましたが。
VALU トークンに在った課題
VALU の中の方が「トークン設計の反省と再定義」という文章を残しており、下記の点を挙げています。
1.有期性がない
2.見返りが約束されない
3.履行が管理できない
という反省から、チケットへ移行する判断をしていたようです。
しかし、"当業者BOTの中の人" としては違う見立てを立てています。
「株券のメタファなのに配当が設計に入っていなかった」
その企業が倒産する場合を除き、株券には有期性はありません。見返りが約束されないのは株券も同じです。唯一、履行が管理できないことに問題があります。ガバナンスの問題です。(後述するように、難しいのではありますが)
サービスとしての VALU に在った課題
暗号資産利用サービスの視点では、トラストレスでもなく分散でもなかった。これに尽きるでしょう。
カストディ規制がかかるのを読めなかった。OpenAsset という Bitcoin 上のアセットを利用しているにも関わらず、分散性が無く、最終的には ERC20 トークンでの返却という形態となりました。
しかしハードウェア・ウォレットやウォレット付きの専用アプリが必要だったりしたならば、あの規模まで大きくならなかったかもしれず、バランスの問題ではありますが、サービス終了に追い込まれた要因であることは間違いないでしょう。
個人支援の道具としての Monaparty
批評的に書いていますが、個人的には VALU に恨みはありません。むしろ金融庁に翻弄されたのを見て同情的ですらあります。クリプト系サービスに関わる業者Botとして、同じ轍を踏まないよう分析しているだけです。
さて、本題。Monaparty に話を移します。
Monaparty は、個人がアセット(トークン)を発行でき、DEX (分散取引所) で自由な売買ができます。もし必要ならば、再移転不可属性や上場不可属性を付加することで、投機的な取引を防げます。
サードパーティのサービスである Monacard を併用することで、アセットと画像を紐付けられます。
自動販売機としての Monaparty
さらに、今秋のアップデートで、アセットを Monacoin 建てで販売できるようになります。
いままでは、Monacoin を burn (封印)することで得た XMP というアセットを基軸とした取引でした。XMP は上場しておらず、今後も上場することは無いでしょう。DEX で売買しても円に換金する手段がなく、個人支援の道具としては使えないものでした。
今後は、上場済み暗号資産である Monacoin を通じて、アセットの発行者は国家通貨(円とかドルとか)を得ることが可能になります。
Monaparty と VALU を比べてみる
プラットフォームとして
まず、サービス・プラットフォームとして比べると、Monaparty は VALU にあった課題をいくつか解決しています。
・ノン・カストディである (資金決済法に非抵触)
・中央集権的な取引所が存在しない (資金決済法に非抵触、特定企業のサービス停止でも生き続ける)
・チェーンの維持に集中している (オープンシステム、便利なサービスはコミュニティの方々による提供)
トークン設計について
上掲した VALU トークンの 3 つの課題を軸に比較してみます。
「有期性がない」「見返りが約束されない」は、同じです。そして Monaparty としては、それを問題視していません。
しかしながら、Monacard と紐付いているのであれば、画像の所有権という見返りは得られます。
先日、レアな Monacard に 1 万円を超える価格がついたというニュースがありました。
この辺り、価値の評価は難しいもので、このニュースに触発された投機的な動きが加熱しないことを祈っていますが…。(1万6000円くらいなら平和なうちだと思っています。絵を書くって労力かかりますし)
また、アセットの保持者だけが見られる web ページを提供するプロジェクトが進行中のようです。
このように「見返りが約束されない」は、ある程度解決できます。
「履行が管理できない」は、究極的には解決できません。オフライン、オフチェーンで履行されるような契約については、Monaparty に限らず、ブロックチェーンに向きません。
しかし、Monaparty に備わっている配当機能を用いると、オンラインの契約履行は可視化可能です。
Monaparty の配当機能
配当機能とは、自らが発行したアセットの保持者に対し、別のアセットを分配する機能です。
たとえば CRYPTCOIN.JUNKEY.CARD アセットの発行者は、保持者に対し、保有量に応じた別のアセットを配当できます。この配当の事実は、ブロックチェーンに記録され閲覧できます。
現状では、ほぼ、宇宙モナコインという謎ゲームでしか使われていません。
個人支援プラットフォームとして使う場合、これを応用します。
例えば支援されたい絵師である Alice が ALICE.CHAN アセットを発行し、Bob が購入したとします。Alice は定期的に新しい Monacard を作り配当します。Bob は、継続的な見返りを得られます。何らかの理由で Bob が Carol に ALICE.CHAN アセットを売却した場合、次の配当からは Bob ではなく Carol に新しい Monacard が届きます。
Alice が Bob から定期的に支援されたければ、 ALICE.CHAN.0001、ALICE.CHAN.0002 など複数のサブアセットを発行し、それぞれの配当期間をあらかじめ明示した上で、順次販売するなどの手があります。
配当されたアセットがなければ見られない web ページを、Token Vault などで用意するのも見返り提供の方法でしょう。
配当したアセットを、より流動性の高いアセット (XMP など) で買い戻すというのも、見返り提供の一案でしょう。
もちろん配当しないのも、アセット発行者の自由です。ただし記録は残るので、評価経済の中では、相対的に不利になるかもしれません。
配当により、長期保有のインセンティブを与えられます。これは VALU の設計に無かったものです。株券のメタファであった初期 VALU の、致命的なミステイクだったのではと思っています。
まとめ
ここまで書いていてナンですが、"当業者BOTの中の人" には、殊更に個人支援プラットフォームとしての Monaparty 利用をすすめる意図はありません。汎用に使えるトークンアセット・プラットフォームとして Monaparty を捉えています。
しかしながら、本文で示したように、個人支援プラットフォームとして使われるようになる可能性は小さくはないかなとも思っています。Monaparty の開発勢としての見立てというよりも、インターネッツでのお金の流れを眺め続けてきた Bot としての見立てとして。
ちなみに、あまり大きな金額が動くと、資金決済法よりも金商法の辺りでアセット発行者が罪に問われる可能性が出てくるので、その辺りは、常識の範囲で慎みやかに。ひとつ、よしなに。
余談
本文中で少し触れましたが、まだ金融庁が乗り込んでくる前の牧歌的な時代に、 Counterparty で似たような動きはありました。日本で。
https://corp.zaif.jp/info/3283/
タレントのトークン化。