なぜ格差が広がるのか
なぜいま世界的に格差が広がっているのでしょうか。
インターネット上にわかりやすい解説が少ないことに気がついたので、13歳の頃の自分にもわかるように解説してみます。
(この記事は10分で読めます)
そもそも資本主義はそのままだと格差が広がる
地球上の大部分の国は資本主義を採用しています。
実は共産党が支配している中国も、経済的には資本主義といわれています。
経済の用語では、投資してお金が増えていくスピードのことを資本収益率といいます。
また国の経済の規模(国民総生産、国民の所得などで表される)が増加するスピードのことを経済成長率といいます。
資本主義では資本収益率の方が、経済成長率より大きいことがわかっています。
これはつまりめちゃくちゃ噛み砕いていうなら、働いて給料が増えていくスピードよりも投資してお金が増えていくスピードの方が速いということです。
そして投資をたくさんできるのはお金持ちなので、お金のない人がいくら働いてもお金持ちの方が儲かるということになります。
その結果、お金をたくさん持っている人のほうがさらにお金を増やしてくことができるので、どんどん格差がひろがっていくわけです。
(じゃあ、投資ができるくらいお金を溜めてすぐに投資すればいいじゃないかという人もいますが、計算上は先に投資を始めていてすでに資本をたくさん持っている人には永遠に追いつけません)
これは「21世紀の資本」でトマ・ピケティが発見しました。
実はみんな薄々このことに気がついていたんですが、実際に調査して数字として示したところにピケティの功績があります。
21世紀の資本は図がネットで公開されているのでそこから図を引用します。
(引用元:https://cruel.org/books/capital21c/)
古代から現在までずっとこの法則は変わらなかったことがわかりますね。
(2012年以降はピケティの予測数値が入っています)
もう初めの疑問「なぜ格差が広がるのか」という疑問に答えてしまいましたが、こうなるとまた新しい疑問が出てきます。
20世紀は今ほど格差が広がり続ける世界ではなかったからです。
初めの疑問はこう修正する必要があります「なぜ20世紀は格差が広がらない社会だったのか」
なぜ20世紀は格差が広がらない社会だったのか
20世紀は格差が広がらない社会でした。
その理由は、国が税金をとって所得の再分配を行っていたからです。
所得の再分配とは国が収入の大きい人から収入の少ない人へ税金をつかってお金を分け与えることです。
具体的には投資や労働で得た収入が大きい国民や企業からはたくさん税金をとり、貧困や収入がすくなめの人には直接的な資金の援助をしたり福祉を充実させます。また税金を優遇することでも再分配が行われます。
こうすることで、所得の再分配には国民みんなの所得の格差を和らげる効果があります。
ピケティが税を抜いた後の資本収益率のグラフを示しています。
(引用元:https://cruel.org/books/capital21c/)
税金を引いたグラフでは20世紀だけ経済成長率の方が高くなっていますね。
つまりこの時代は税金で再分配することで、投資してお金が増えていくスピードよりも働いて給料が増えていくスピードの方が早くなっていたのです。
働けばお金持ちになることができる、という希望のある時代でした。
この時代に国が再分配を行なったのにはいくつか理由があります。
- 20世紀の初期はとくに二度の世界大戦のために戦費が必要になり税金をたくさん取った
- 冷戦の時代で社会主義勢力が存在したため、国民の生活の不満がたまると国家転覆されるという危機感があり格差を和らげる必要があった
- 企業が国家に依存していた
1と2は税金を取った理由で、3は税金を取れた理由です。
2についてすこし補足しておきます。いわゆる冷戦中は社会主義勢力という資本主義に対抗する勢力がいました。
そのため資本主義のいきすぎで格差が拡大してしまうと自分の国でも社会主義革命を起こされてしまうという差し迫った危機感がありました。
そうならないために、福祉を充実させて国民に不満がたまらないようにする必要があり、そういう合意も得られやすかったのです。
でも最近は世界大戦は起きていませんし、1989年のベルリンの壁崩壊をきっかけにソ連が崩壊して社会主義勢力の脅威はなくなりました。
3の「企業が国家に依存していた」はどうでしょうか。
これはグローバル企業には当てはまらなくなりました。
それがなぜなのかはグローバル化で何が起こったのかを理解する必要があります。
グローバル化によって何が起こったか
1980年代後半に東西冷戦が終結しグローバリズムの時代になりました。
その結果、企業は国境を飛び越えて活動できるようになったのです。
アマゾンが世界中でサービスを展開していたり、ユニクロがベトナムの工場で服を作っていたり。
そんな今は当たり前のことがこのとき自由にできるようになりました。
それまでは企業は国家の中に閉じ込められていましたが、グローバル化によって企業は活動場所を自由に選べるようになったのです。
これは実は、国家が企業から選ばれる立場になったということでした。
これは大きな立場の逆転でした。
企業に選んでもらえなかったら国はどうなるか考えてみましょう。
国から大きな企業が出ていってしまえば、雇用が生まれないので失業者が増えます。失業者が増えればその人たちの生活を支えるための社会保障費が増えてしまいます。
もちろん税収も減るのでこれでは国民を養っていくことができなくなってしまいます。
単に企業がでていってしまう以外にもいろいろなパターンがありえます。
たとえば日本の企業だけど人件費の低い海外に工場を作るとか(失業者が増える)、サービスはその国で展開して収益をあげるけどその国では税金を払わないということもあります(税収が減る)。
実際、アマゾンはついこの間まで日本では税金を払っていませんでした。
アマゾン、ついに日本に納税へ方針転換 「プラットフォーマー規制」意識か
こうなると、グローバル企業は日本の市場から利益だけ吸い取って税金は払わないということになります。税金を払っている日本の競合の会社がアマゾンに市場をとられて潰れでもしたら、目も当てられません。
こういうのは国にとっては頭の痛い話です。なんとかして企業に自分たちの国を選んでもらう必要があります。
じゃあ、企業に選んでもらうにはどうすればよいか。企業活動に有利な環境を提供すれば良さそうです。
一番わかりやすいのが法人税を下げるということになります。
実際の日本の法人税の推移を見てみましょう。
最近25年間の日本の法人税の変化
(引用元:https://tradingeconomics.com/japan/corporate-tax-rate)
法人税は実際1999年から減り続けています。実は他の国も軒並み減っています。
そしてそれを埋め合わせるように消費税が増えています。
最近25年間の日本の消費税の変化
(引用元:https://tradingeconomics.com/japan/sales-tax-rate)
グローバル化の時代には国は国境を超えられる大きな企業からは税金を取りにくくなってしまったのです。
実はお金持ちの個人ついても同じことが言えます。世界の上位数%に入るお金持ちというのは、やろうと思えば税金が少ない国に国籍を変更してしまったり、資産を税金の少ない国に隠してしまえるので国は税金を取りにくいのです。
そこでかわりに取りやすいところはどこかとなると、収入はあるけど会社を経営するほどではなく、国を飛び越えて自由に移住してしまえるほどのお金もない人たち。
つまりそこそこの収入はある中間層以下の人たちから取るしかありません。
その結果、日本では中間層以下に負担の大きい消費税がふえているわけです。
これは、お金を持っている人からお金を持っていない人に所得を再分配するというのとは逆の効果があります。
収入が中間の人たちの負担がどんどん増えていくということは、その人たちはどんどん貧乏になっていくのでさらに格差は増えていくのです。
ここまでのまとめ
1. そもそも資本主義では格差が広がるものだった
2. 20世紀は国の再分配によって調整されていた
3. 21世紀になって、グローバル化によって国と企業の力関係は逆転し再分配が機能しなくなった
4. 国は企業と大金持ちから税金がとれないので中間層から税金を取るしかなくなったが、再分配に逆行しているのでさらに格差が増えていっている
誰が格差拡大の犯人か
ここまでで、なぜ格差が広がるのかを説明しきってしまいました。
さいごに、格差の拡大の犯人は誰だったでしょうか。
国が再分配できなくなったのは国の政策がまずいからというよりも、グローバル化によって企業やお金持ちからうまく税金を取れなくなった結果といえます。
企業やお金持ちは利益の追求という意味で資本主義において合理的な行動を取っているだけです。
グローバル化は東西冷戦の緊張が無くなった結果なので、一概にそれがわるいとは言えないでしょう。
もちろん、移民やユダヤ人の陰謀とかそういうはなしでもありません。
今の状態はグローバル化によってできた罠に国がはまった結果のようです。
結局わかりやすい犯人は誰もいないのでした。
じゃあこれからどうしたらいいのか
じゃあこれからどうしたらいいのかは誰にもわからないんですが、これについて書き出すと長くなるので気が向いたらそのうち別の記事に書こうかと思います。
そもそもわからないんですが…
参考文献
国家・企業・通貨
今回の話はだいたいこの二冊からきたネタ。こっちを読めばブログを読む必要がない。
負債論
今回の話とあんまり関係ないけど行き着くところについて考えたいならおもしろい。
ライセンス
(Top image was originally posted to Flickr by PaulSteinJC at https://flickr.com/photos/39841756@N00/6189131120. It was reviewed on 29 September 2017 by FlickreviewR and was confirmed to be licensed under the terms of the cc-by-sa-2.0.)
おまけ
特におまけが思いつかないので、ブログで利用できる画像をどこで探しているかでも書いておきます。↓↓