宗教法人「ビットコイン教団」

宗教法人「ビットコイン教団」

「宗教」と「法定通貨」はどこか似ている。最近、日本の信者を養分に肥大化した某国発祥の宗教団体が話題だ。他方、政治家は国家名義で借金を重ね、選挙に勝つ。中央銀行は「通貨の番人」を辞め「政府の番頭」として通貨価値の希釈化に励む。

「正義」「自由」「平等」など崇高な理念を掲げながら、神をも恐れぬ所業によって、民衆から資産を搾取する。洗脳された民衆は、搾取システムを積極的に支持し受け継いでいく。いつか破綻し新しいシステムに置き換わる、その日まで。「宗教」と「法定通貨」はどこか似ている。

序章:

最初は軽いノリだった。

私の営む零細IT企業が、LN占いアプリ「雷斗忍愚寺院(Lightning Temple)」をリリースした。これが想定を超えてマーケットフィットしたのが始まりだ。

以前からライトニングネットワークには興味があった。既存LNアプリはゲーム系が多く違う切り口を考えていた。ちょうど、アメリカの若年層に占星術や数秘術アプリが人気というニュースを見て着想を得た。1年半後、開発担当者の苦心の末、ライトニング送金による御神籤サービスと、日本の神秘的な占いが楽しめるアプリが完成した。占いの信憑性は、古来から受け継がれし寺院(実際は親戚の神社)と伝説的シャーマン(神主の叔父に無理やり依頼)が監修することで担保した。

幸い、リリース時期とブル相場と重なったので、海外向けWebプロモーションを強気に打った。米国若年層をメインターゲットにしたリーディング広告、SNSプロモーションを実施。これが徐々に話題を集め、数社の海外ITメディアが記事にしてくれた。

次に世界的ニュース配信社から取材依頼が来た。私は急いで、神社の境内にビットコインロゴ看板、LN専用賽銭箱を設置。コスプレした当社社員とその家族が参拝する映像が配信され、一時ネットミーム化。広告費ゼロで拡散していった。

盛り上がりが落ち着いた後も、ニュースのネタとしてLN占いアプリの利用者数やリアル寺院の参拝客数が取り上げられたり、有名ビットコイナーの参拝企画があったりで、国内での認知度も高まっていった。

その後、LN占いアプリは海外の大手にパクられ下火になったが、リアル雷斗忍愚寺院である親戚の神社は、ビットコインのパワースポットとして有名になった。

神社を営む叔父は「ビートコイン?詐欺で稼いだ金は受け取らんぞ!」と言っていたのに、今ではすっかり気を良くしている。取材では、さもわかった風に「日本の伝統文化を守るため、最新技術ビットコインを活用した。」「ライトニングを利用して日本古来の教えを広め、世界中に和の心を広めたい。」と語るのを見て爆笑した。叔父はビットコインを全く理解せず、口八丁で話していたのだ。

私が叔父をおちょくって「サム・バンクマン・アルトマン」とあだ名をつけると、「世界中で覚えやすい愛称だな。」と気に入ってしまい、ますます笑えた。

叔父こと「サム・バンクマン・アルトマン」は、神主に似つかわしくない商才を発揮していった。神社の在庫だった御札、御朱印帳、置物にビットコインロゴをつけて販売すると、「神道とBTCのあり得ないコラボ」が受けて大人気となった。氏神様のご加護入り「雷斗忍愚寺院(Lightning Temple)」刻印の絵馬、火打ち石、お清め塩を制作すると、海外客にはクールに映るらしく高評価がついた。

一番のヒット作は、フィジカルビットコイン御守り「閃光」「宝来」「雷電」。三種のSats&御利益入りというコンセプトが当たる。封じられしSatsの10〜20倍の価格で飛ぶように売れた。「サム」の隠されしスキャム的才能が開花したのだ。

私は会社経営の傍ら、LN神社グッズ専門Webサイトを作って商品を売りつつ、「雷斗忍愚寺院NFT」を発行した。有志が自主運営する「信者DAO」に依頼すると、無料でデザインしてくれた。

「信者DAO」の一部は、境内の掃除やグッズ販売を担うようになり、次第に常駐スタッフになった。暗号資産市況の盛り上がりに応じて、DAO参加者増加に拍車がかかると、地元有力者が地域貢献のお礼にと表敬訪問し「供物」を奉納していく。有名になるに連れ、多額のビットコインを「お布施」として送金する謎の人物も増えだした。

お布施やグッズ販売など「宗教活動」による利益は無税だ。たとえ信者が少数でも、一定の寄付があれば宗教法人を運営出来る。非課税の理由は「公益性」が高いからだ。「雷斗忍愚寺院」には世界中から少額かつ大量のLNお布施が届く。ほぼコストゼロなので利益率は約100%、対して税率は永遠の0%だ。

日本における「宗教活動」の範囲は非常に広く、御神籤や御守りの販売はもちろん、永代供養という名の墓地貸付・販売さえ非課税である。ただし、宗教性がなく、民間と競合するホテルや駐車場営業などは「収益事業」に分類され課税対象とされる。

ところで、叔父「サム」は神主という職業柄、穏やかで欲がない人格者だと思われていた。だが内心では「宗教の本質は、救済を騙った集金マシン」と考えるタイプだ。

もちろん、世の中には真の宗教家が存在するだろう。政治と同じく、宗教によって世界が保たれている部分もある。しかし、崇高な教義より、団体存続を優先する宗教がいかに多いことか。「宗教というシステム」は、世俗的欲望に「ハック」され、中枢にいくほど教義から乖離し空洞化しやすいことを、「サム」は身をもって知っていた。

彼は氏神を祀る「祭司」として振る舞う裏で、宗教的集金スキームが生みだす莫大な利益を欲し、それを独占したい煩悩を抑えられなくなっていた。

ある日、「サム」は「信者DAO」に語りかける。

「ビットコインを通じて世界平和を実現するため、神社本庁から袂を分かち、新たな教団を立ち上げます。DAOの皆さんのご支援が欠かせません。よりよい未来のために一緒に働いてくれませんか?」

その頃、全国約8万社の神社を傘下に置く宗教法人「神社本庁」では、トップ人事を巡る内紛が起きていた。「サム」は本庁に上納金を納めるのがバカバカしくなり、離脱を決意。近年の明治神宮、富岡八幡宮など有力神社の離脱が背中を押した。神社本庁に属さない神道系の新宗教(大本、真光、天理など)の存在も心強かった。

「サム」は神道をモチーフに「八百万の神とビットコインによる人類の救済」を謳う新宗教を創造する。『神道2.0』という謎のキャッチフレーズを掲げ、出版やメディア出演を積極的に行った。その頃からは、ブレーンの有力信者や秘書の女性信者など、取り巻きを従えるようになった。そうした大胆な行動を支えたのは、濡れ手に粟の寄付資金だ。

自らが教祖となる教団設立は、「サム」の金銭欲・名誉欲を満たす最高の舞台だ。もとより彼は、ビットコインを理解したわけではない。以前、ビットコインマキシから質問攻めを受けた経験から嫌悪さえしていた。ビットコインをトラストしない「サム」は、秘密裏に教団ウォレットのBTCの大半を日本円と金地金に変えていた。そこへ偶然にも暗号資産の冬相場が重なり、「サム」は自らの能力を神格化した「サム暴威」となる。

それを冷めた目で見ていた私は、ビットコインの歴史初期、BTC大量保有でも飽き足らず、自らアルトコインを作った人々は、こんな感じなのだろうかと思った。

彼は、大増税時代の非課税サンクチュアリ「宗教法人格」取得に詳しい士業連中を雇い、新教団法人化に向け行政手続きを進めた。さらに、老朽化した社殿を「ビットコイン神殿」に建て替えるべく、複数の銀行と融資交渉に臨んだ。その姿は自信に溢れ、かつての初老独り身人生とは正反対の充実ぶりだった。

時は過ぎ、新教団設立発表を間近に控えた「サム」と上位信者は高揚感に包まれていた。信者DAOトークン「雷斗」による投票の結果、新名称は「ビットコイン教団(英:Bitcoin Religion)」に決まり、プレスリリースの準備も順調だ。

DAO内部の技術者が開発・発行したトークン「雷斗」は、教団ガバナンス機能はもちろん、世界で唯一の「ビットコイン神殿」での特典があるユーティリティ機能が人気を博した。一時は、CMCトップ100にランクインするなど、日本発祥銘柄の代表格として名を馳せた。

トークン価格は、上場直後ATHから大暴落し、ダラダラと下げ続ける状況の中、「サム」自身は莫大な利益を手にしていた。「信者DAO」中核メンバーが描いたシナリオ通り、上場直後に大半を売り抜け、一般信者には「信仰と絆」を説き、教祖自ら買い支えを煽った。

新教団の世界展開ロードマップでは、布教による信者拡大とトークン価格が連動することを匂わせ、価格復活の日(イースター)到来を示唆し、HODLの重要性を訴え続けた。絵に描いた餅により安寧を得た信者の購買力により、「雷斗」トークン発行益は、目論見通り新教団最大の収益源となる。

それらに興味が持てなかった私は、ライトニング関連の広報活動と称し、海外を飛び回っていた。私の名前は「雷斗忍愚寺院(Lightning Temple)」のヒットのお陰で、国外でもそこそこ売れていた。カンファレンスなどで、開発者やエバンジェリストと交流するのは楽しく刺激的だった。だが、「雷斗」トークン暴落の話題を振られるのは、正直キツかった。

一介の神主だった叔父「サム」の変貌、「信者DAO」中核メンバーの異様な実行力は、私にとって不気味だった。アプリ事業に宗教を利用したことが、詐欺集金モンスター暴威誕生につながった訳であり、私への「神罰」として相応しいだろう。

「LNアプリ創業者」としての責任があり、自分のプロダクトから逃げ出すわけには行かない。しかし、情けないことに、先ごろ会社は譲渡しており、「雷斗」トークンのプレマイン資金で海外生活を送っているのが現状だ。

とうとう自分に嫌気が差した私は、腹を決め、ある決意を胸に、新教団設立記者会見に合わせ帰国の途についた。

私には教団上級幹部ポストが用意されるらしい。ビットコイナーの言葉に感化された私は、ポストという「サム」のエサに惑わされず、反撃の狼煙を上げる覚悟があった。設立記者会見において「ビットコイン教団は、雷斗トークンから徐々にフェードアウトし、ビットコイン事業に集中する」と宣言するプレゼンを用意していた。

拒否されたら、自分の知名度を使い、信者DAOでの投票を呼びかける。恐らく負けは確定だが、自分に投票してくれた雷斗トークン反対勢力を引き連れて分派すればいい。「サム」教団と私の分派、どちらが真のビットコイン教団なのか、世間に判断を委ねよう。

宗教の歴史は、内紛・分裂・分派の繰り返しだ。既成宗教から新宗教が次々と誕生するのが常である。クリプトカレンシーにおけるソフトフォーク、ハードフォーク、公開コードコピーアルトコイン発生の歴史は、宗教のそれと瓜二つだ。ビットコイン誕生からの系譜は、宗教が辿った長い歴史の凝縮版であり、早送りした写し鏡に見える。

最大の懸念は、「サム」とDAO中核メンバーが分派行動を妨害する場合だ。対抗策は限られるが、教祖「サム」の豪遊、信者DAO内部の使途不明な資金流用を掴んでいると脅せばどうか。スクープメディアへのリークという奥の手もある。それで教団が潰れるなら、仕方がないという心境だった。

私は断固たる決意で、新築間もない「ビットコイン神殿」の装飾扉を開け、「サム」達が待つ法人役員会議に臨んだ。

だが、事実は宗教よりも奇なり。

私は、記者会見の原稿を見て愕然とした。「教団教祖」の欄には「サム」ではなく、私の氏名が記載されていたからだ。なぜか叔父「サム」の名前は発表原稿から消されており、誰も真実を語らない。一体、教団内部で何が起きたのか・・・。

次章予告:

教祖「サム」突然の失脚の謎が明かされる

表向きの原因は設立記念事業『聖サトシ・ナカモト天照大仏』建立を巡る対立とされた。だが内部では、教祖「サム」と「信者DAO執行部」キャロ羅院、寺ルナ、ジャスティン南無三との激しい派閥抗争があった。背景には、非課税事業の莫大な利益を貪る教祖の私利私欲と、DAO執行部による汚職の無限連鎖が渦巻いていた。

キャロ羅院の魅惑の虜となり操り人形にされる私。救いの手を差し伸べたのは、「雷斗」トークン開発者、「我こそが聖サトシ」と名乗るPh.D.クレイジー・雷斗だった。そこへ異教徒「ビッチコインジーザス」路上・BARも加わり、教団分裂アクティベート「ビックブロックビジョンABC包囲網」が発動する。

遂には「ビットコイン教団」正統チェーンを賭けて、キャロ羅院、クレイジー・雷斗、路上・BARの三つ巴のよるハッシュ最終戦争の火蓋が切られる!

つづく(には信者の皆様のお布施が以下略)

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