短編小説よもぎ1話
よもぎ餅を食いてえってあいつが言うからさ
俺、よもぎであることを隠して生きてきたのに
ちょっと頭をよぎっちまったんだ
よもぎであることを皆に明かしてしまおうかなって・・・
時は遡る
昭和62年のことである
ちょうどこのよもぎのお母さんが28歳だった頃、このよもぎは生まれた
すくすくと育ったよもぎは
猛々しい木々の中に、ただ一人凛としたよもぎとして生きた
誰にも似つかわしくないその緑色の体が
とても美しく誇りに思っていた
そんなある日のこと、周りの木々の中の一人の木が言った
お前どうしてそんなに緑色なんだって
どうもこうもないずっと普通にこう生きてきたよもぎは答えようがなかった
わかるわけない
でもそんなこと聞いてくるということは、きっとこの木さんは僕のカラダに興味があるんだな
そう思うとますます誇らしい気持ちでいっぱいになった
将来に対する希望
きっとこの世界で唯一の緑色の体が、世界を変えるような何かを作り上げるに違いない
そんな大人から見ればバカバカしいが、勘違いな自信で満ち溢れた、普通の青年時代を送っていた
ある人間の青年が通りかかりこのよもぎを摘むまでは・・・