短編小説「はじき」
「はじき」なのか「はじめ」なのか「はじろう」なのか
その男の言葉は初めから発音が聞き取りにくかった
しかしよくよく聞いてみると「はじき」と言っていることが分かった
じつに滑舌の悪い男だ
「はじき」なのか「はじめ」なのか「はじろう」なのか
それすら区別がつかないような発音能力でよく生きてきたものだ
しかしこの先どうしよう
いきなり飲み屋で話しかけてきたこの男、
正直聞き取りにくいからいちいち聞き返すのは本当にめんどくさい
それに「はじき」がどうしたというのだ
「はじき」って、要するに鉄砲のことだよな・・・
いきなり話しかけてきたやつに、鉄砲の話なんてするか?
もう1回聞いてみようかな
「おいあんた、今はじきって言ったよな?それって鉄砲のことか?ええ?」
「あじきだよぱかやろう」
何だ、聞き間違いか。あじき?でもあじきなんて言葉は聞いたことないな。
また聞き間違えか。とにかく聞いてみよう。
「おい、あじきってなんだ?」
「これだよぱかやろう」
そういう親父は鉄砲を取り出した。
よかった、やっぱり「はじき」か。そう思った刹那、響き渡る銃声音。
男は思い直した。「おはじき」だったらな・・・。
横たわる男の顔には、笑みが浮かんでいた。