【全文和訳】Arthur Hayes "Choose Your Fiction"

【全文和訳】Arthur Hayes "Choose Your Fiction"

今日は4月9日のBitMEXブログ「Choose Your Fiction」(アーサー)・ヘイズ著)を和訳していきたいと思います。アーサー節がいつも以上に炸裂していますが、大げさな表現を含めアーサーの世界観が強く表れている作品ですので、ぜひともおつまみ片手にご覧ください。

4/16追記:公式の日本語訳も出ました。公式のほうが上手い訳もあればこっちのほうがいいと思う部分もあるので、よろしかったら読み比べて見てください。

~~本文~~

パチンッ!あなたが指を鳴らすと同時に新型コロナウィルスは消滅し、ようやく外出していつもどおりの生活を取り戻すことができる。そのときどんな気分だ?1月と同じくらい未来に楽観的になれるか?政府があなたの健康と安全を最優先してくれると信用できるか?メディアが権力に対して事実を突きつけると信頼できるか?安心して目や鼻、口に触れるのか、それとも、1時間毎に熱心に手を洗う生活を続けるのか?

もし事態が収束したときに1月までと同じような生活を素直に取り戻すことができるのであれば、それは幸せなことだ。もしかしたら経済もV字回復するかもしれない。しかし、私が思うようにあなたの世界観が根本的に変わってしまったとすると、あなたの生活を支える「フィクション」(幻想)も大きく変化してしまったことだろう。世界で最も重要な価格――お金の価格――とその本質を考える上で、社会が信じる幻想を先読みすることは非常に重要だ。

法定通貨(つまりUSD) = 幻想+暴力

米ドルの価値が、契約に則った支払いや税金が武装した権力によって必ず徴収されるということに基づくことはご存知の通り。つまり、ドルの価値の源泉はアメリカが十分な税金を徴収し、国債を償還することができると信じられていることにある。

ゴールド = 幻想+物理的な希少性

金はそれほど広範な産業的な用途があるわけではない。キラキラしていて、物理的に希少で、柔らかく、何千年も人間の関心を集めてきたことから価値があるのだ。

ビットコイン=幻想+暗号学的な希少性

ビットコインの価値は、多くの人が最終的に2100万枚までしか発行されないというオープンソースのコードを実行していることによって担保されている。

第二次世界大戦での大量殺戮のあと、連合国はブレトンウッズで会合し、米ドルに基づく現代の金融システムを作り出した。この米ドル基軸の体制が今日まで続いている。

1971年まで、米ドルは1オンス35ドルで金と兌換することができた。トリッキー・ディック(ずる賢いニクソン大統領)は戦争をしつつ国民にはバラマキを行いたかった。「バラマキするから俺に投票しな!」というのが最強の選挙対策だからだ。そこで、財源としてアメリカの金準備高に手を付けるより、米ドルと金の関係性を断つことにした。以後、米ドルの価値は担保を失い、完全に信用に基づくこととなったのだ。

時は流れて2020年1月。アメリカは世界で一番流動性の高い金融市場を持ち、世界中から資本を受け入れている。メジャーな商品や取引はすべて米ドル建てで行われているため、世界の各国や各社は国際経済に参加するには米ドルへのアクセスが不可欠だ。

市場が強気のときは、参加者はみんなこのシステムの恩恵を受けている。連邦準備銀行は米ドルの潤沢な供給を維持する世界的な責任を背負っており、そのために各国の中央銀行と通貨交換協定を結んでいる。世界は米ドルを必要としており、それを供給できるのは陰気な研究者じみたFEDの長たちだけなのだ。

政府や会社は裕福なアメリカ人にガラクタを売りつけることで簡単に米ドルを入手できる。アメリカのGDPのおよそ7割は消費によるものだ。消費が経済を回す。世界中で何億人という貧民が「アメリカの」会社がiPhoneやエアジョーダン、フォードF150を安く生産して記録的な利益を上げるために貧困から救い出された。

ヨーロッパ人も大量に消費をしている。ヨーロッパとアメリカが世界の商品の需要サイドの象徴だ。彼らなくして、誰がこんなに利ざやの乗ったゴミを買ってくれる?

鄧小平が南巡講話で100年ぶりに中国を世界にけしかけた。そして彼らは西洋から東洋への製造業の移転によって得た富を、贅沢品や旅行、教育などの業界に落とすようになった。

哲学ぶって申し訳ない、自分は現代のソローではないし、彼みたいに池の上に住んでいるわけでもない。簡単に言えば:中国はアメリカとヨーロッパ相手に、米ドルでものを売っている。

おっと、新型コロナウィルスが出てきた…中国はウイルスとの戦いのために生産を停止し、米ドルの収入を失った。すると、アメリカ人もヨーロッパ人も感染して経済を停止し、需要もなくなった。

中国が「営業再開」して生産を始めても、みんな家でPornHubを見ながら食べ物のデリバリーを注文している西側から注文はない。だらけていないときも、高額な医療費を支払うために次の給料がいつ振り込まれるか心配しているだけ。つまるところ、中国に米ドルが渡らない。

そしてそれは中国だけのことではない。製造業やサービス業が盛んな国はどこも同じ状況だ。でも、米ドルがなければ原料を買ったり、ドル建ての借りを返すことができない。彼らの中銀が米ドルを供給できたら問題ないが、なんということ!それは無理な話なわけだ。

3月の終わりの方に、ちょっとした新興国通貨の崩壊が起こった。アメリカの連邦準備銀行は対応としてより多くの中銀に通貨交換を申し出たが、中国はその中には入っていない。多少は効果があったようだが、CDX EM HY CDSスプレッドに注目してほしい。ウエスト・ハリウッドのパンクの髪型みたいになってる。

従来の知恵では、ドルがある程度安くなるまで連邦準備銀行はいくらでもドルを発行できる。だが、アメリカの銀行はドルを蓄え、貸し渋る傾向にある。これには様々な規制によるところがあり、世界的な不景気にあえて貸し出すリスクを負いたくない気持ちもわかる。万全を期して、自行のバランスシートの改善に務めたい気持ちだ。

つまり私が言いたいのは、FEDはいくらでも米ドルを発行できるが、その米ドルは一番それを必要としている会社や国には渡らない。中でも一番重要なのが中国だ。中国の通貨は交換できないし、西欧やアメリカの視点からすると、そもそもウイルス拡散の責任は中国にある。それが事実かどうかは別問題として、アメリカの政治家が「中国経済が新型コロナウィルスの影響から立ち直れるように米ドルを発行してください」とFEDに頼めると思うか?

ウイルスは武漢の動物市場から広がったとされている。西側諸国は中国政府が当初は問題を握りつぶそうとしたと信じている。それが、大きな問題だと発表し、いきなり国をロックダウンした頃にはもう、数百万人の中国人が世界中を旅行してウイルスを拡散してしまっていた。真実がどうかは関係ない:ストーリーがすべてなのだ。今年はアメリカの大統領選挙があり、中国バッシングの勢いは強い。サインフェルドの「スープ・ナチ」のように、「お前さんにドルは出せねえ」とばかりに。

米ドルがサイキョーすぎて、世界経済を破壊してしまいそうだ。

適切な量の財政出動を行ってコロナウィルスの収束まで乗り切ることができる唯一の国はアメリカだ。他の国には、信用収縮を防ぎつつ国民の経済活動を復活させるのに必要なレベルの政策は米ドルに対する通貨安を招いてしまうのでできない。すべての原料は米ドルで価格付けされているので、国債を換金するために自国の通貨を供給しすぎると通貨が安くなりインフレが暴走してしまう。その時点で、ジャコバン派が街に繰り出し、ケーキを食べている政治家は痛い目に遭う。

これが私が予想する次の10年の流れの要約だ。タイミングはわからないが、米ドルが強すぎてグローバル経済の背骨を折ってしまい、リセットが必要になるだろう。問題はその次のシステムがどのようなものになるかだ。

ポートフォリオからアーサーの魂(ソウル)を垣間見る

USDCNH 2y 8.00コール ロング
USDKRW 1y 1600コール ロング
CDX EM CDSI スプレッド ロング (まだポジってないが、市場のリバのさなかタイミングをうかがってる)

中央銀行は変化の少ないデジタル資産に対しても通貨安を招く。そのデジタル資産が何であるかは見当もつかない。ビットコインに関係あるかも。

USDの幻想は終わった。世界のメンタルには代わりの松葉杖が必要だ。

物理的な希少性をとるか、暗号学的な希少性をとるか?

法定通貨への社会的なフェチズムの時代が終わり、振り子が希少で変化の少ないものに強く振れるだろう。いままでは投資家はドル高は金やビットコインにとっては逆風だと考えている。

しかしドルは不足し、ゾンビ化した法定通貨への信用は蒸発する。歴史的には金が一番の選択肢だ。中央銀行も多く保有している。通貨をデノミするのに最適な環境は金価格の高騰だ。1970年代のオイルショック時も金は高騰し、FEDはそれに対応して金利を上げ、金を買うより国債を買えば利息を20%も得られるようにして法定通貨を安くした。

だが今回はFEDが金利を上げることは困難だ。なぜなら、金利を上げると、国民にいい生活を配らなければならないアメリカ政府の財政悪化を招くからだ。肝に銘じるんだ:今は国民のための無限金融緩和"QE 4 Da People/QE 4eva"の時代だ。アメリカの有権者は金融業界だけへの救済は2度と認めないだろう。彼らは家にこもりNetflixで「Tiger King」を見て、アサルトライフルで現代版ウイスキー税反乱を起こさない代わりに補償を求めるからだ。

つまり、ブレトンウッズ体制が崩壊する中で人々にとってゴールドより魅力的に映る資産はないのだ。「自由の国」の株式市場は政治利用されるツールに成り下がる。アメリカ財務省はFEDの力を借りて国債や社債をすべて買い上げる。株式も買う。消費者のローン債権も買う。「国が指数買いするなら先回りして株買えばいいのでは」と思うかもしれない。でも1989年の日経平均を思い出してほしい。今では日銀が日本の株式市場の30%以上を保有しているが、日経平均は今も最高値の半分しかない。しかもこれは単純に価格の比較だ。日銀の保有分を除外して比較してみると…REKT。

一度は趨勢を占めたアメリカの株式市場も、ゾンビ化した大企業がコネを使って納税者から金を吸い上げる場になってしまう。インフレが落ち着いていれば、それほど悪いことでもない。だが、世界経済が回復するにつれ、無限の法定通貨が有限の商品を追う状況になる。中小企業はほとんどの国の経済の6~8割を占める。彼らは規模の小ささやコネクションの少なさから、借りられたとしても高い金利でしか金を借りられない。政府が中小企業を支援するための貸付を提供したとしても、大部分の中小企業は実際に貸付を受けられるまでに潰れてしまう。複雑系は線形には回復しない。

したがって、無限の財政および金融支援が有限の供給に襲いかかる。インフレが起こる原因だ。世界中の株式市場も政治利用され、資本の効率的な割当という役目を果たさなくなる。間違ったシグナルが発せられ、間違った商品が生産される。調子に乗った若者はアボカドトーストが40ドルになっても耐えられるか?

今に至る人類最高のインフレヘッジである金は価格上昇するだろう。幻想+物理的な希少性を信じるなら、他に選択肢はない。どれくらい上昇余地があるかって?例えば世間にあるクレジット(借金)の総額とマネタリーベースの比率を考えてほしい。その比率が将来の金価格を考える上でガイダンスとなる。

もう1つの可能性は、デジタルだがUSDベースではない金融システムの誕生だ。

もし彼らが広場に出てきて[ドル]基軸が良いものと主張しようなら、我らは背後にいる国中・世界中の生産者を後ろ盾に徹底的に抗戦しよう。我らは事業者や労働者や苦しむ市民を代表して、[ドル]基軸を求める声に対して、労働の額にこのいばらの冠を押し付けるべからずと答えよう。人類を[ドルという]十字架に磔刑にするべからず。 ―サトシ・ナカモトの民主党総会スピーチ、2020年

(訳注 実際は1896年のCross of Gold speechの引用です)

中央銀行からなる秘密結社がデジタルで信用のある仮想通貨を発行して通貨を切り替える?ありえるかもしれない。中央銀行がそれぞれの金準備高を担保として発行するデジタル法定通貨のバスケットが生まれる?それもありえる。

少なくとも確実なのは、もっとも価値が認められているデジタル通貨であるビットコインにとって最高のチャンスであることだ。あらゆる信用は消滅した。需要と供給の破壊に対応するため、各国政府はヤケになって市場最大の財政出動を始めようとしている。そして、人口の30%が失業しているのだから、その財源は税収ではなく、通貨の供給によることとなる。しかも、国民に直接資金を提供するため、各国政府は通貨のデジタル化を推し進めるだろう。そうすると、一般市民もデジタルな通貨について学ぶこととなる。デジタル法定通貨を理解したら、より確実にインフレから逃れられるデジタル通貨を探し出すはずだ。もしあなたがリブラが一般人にデジタル通貨の良さを思い知らせるきっかけとなると思ったのなら、失業保険や生活保護を受けている人たちがみんなアプリで買い物する状況は垂涎ものだろう。

覚えておくんだ:世界中がロックダウンになり、中小企業が潰れるせいでモノの供給は不足する。必需品はインフレし、贅沢品はデフレする。デジタルファイナンス+価値の保存=ビットコイン。以上だ。

この結論に至るまで時間がかかってしまったな。さて、トレードに活かしてみよう。

相関その①

世界的なマージンコールにおいて、市場はレバレッジがかかっているところを探し出し、レバレッジを解消させる。

世界的なマージンコールにおいて、流動性のある資産はすべて流動性のない資産の証拠金として売られる。

世界的なマージンコールにおいて、相関係数=1。

現在、リスク資産に関して世界的なマージンコールが起きている。すべての資産クラスが売り叩かれているのは、握力の弱い欲張り者がレバレッジをかけてボラティリティをショートしようとしていたからだ。

BitMEXの建玉も半減した。レバレッジをかけていたトレーダーが担架で運び出された。ビットコインを担保にマイナー(ドルが必要)にドルを貸していたプラットフォームはマーケットが溜まっていた圧力を吐き出したことによって強制的に売らされた。

すべての他の資産クラスと同様、ビットコインでもレバレッジは痛めつけられた。しかし、比較するなら、第1四半期のビットコインはS&P500よりもパフォーマンスがよかった。SPXとの相関は一時的に非常に高まった。

下方向へのレバレッジの吐き出しは終わった。BitMEXのXBTUSD無期限先物の建玉はゆっくり増加しており、新人研修を終えたトレーダーが戻り、インフレ期待が高まるとともに、インフレヘッジの探求が始まるだろう。

これは世界的なリバランスの第1幕だ。レバレッジによってもたらされた値付けの歪みは1つ残らずリスクに晒される。買い増しには気をつけろ。

ビットコインはレバレッジをかけずに保有されるだろう。もう一度3000ドルを訪れる可能性があるか?もちろん可能だ。SPXが下落し2000ドルを試す展開になれば、またもやすべての資産クラスが急落するだろう。第1四半期の資産価値暴落は激しかったが、100年近くかけて溜まってきたアンシャン・レジームの不均衡を解く前途は長い。私の年末のビットコイン価格予想は相変わらず2万ドルだ。

誰もが時代の節目が来たと気づいているから、中央銀行や政治家は全力でこの問題に挑むだろう。そして繰り返すが、供給が一定または減少する商品や労働に対して通貨の供給を増やすことはインフレを引き起こすことになる。新しいシステムが何であれ、その過渡期に保有すべきものは2つだけであり、その2つは金とビットコインなのだ。

私が詐欺師だと思うなら、もしくはとち狂ったキャッサンドラだと思うなら、あなたの信じるものが新型コロナウィルス以前と以後でどう変わったか考えてほしい。あなたの世界観は2020年1月に戻ることができるだろうか?私は手札にインフレ耐性を持つゴールド・ビットコインポケを持って、あなたのブレトンウッズ体制の7・2オフスーツにコールする。オールインだぜくそやろうども。

~~本文おわり~~

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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記事を書いた人

ビットコインが好きです。ビットコイン研究所に寄稿したり、トラストレスサービス株式会社という会社で実験的なサービス開発をしています。

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